救急医?の雑記帳

日々感じたこと,調べたこと,得たこと,目標としていることなどを備忘録目的に不定期にまとめていこうと思います.

低酸素血症を伴っていないAMI疑い対して酸素投与を行っても、1年後の生命予後は改善しない

低酸素血症を伴っていないAMI疑い対して酸素投与を行っても、1年後の生命予後は改善しない

(情報)
スウェーデンで行われたRCT.30歳以上の胸痛、6時間未満の息切れ、SpO2≧90%、心電図で虚血性変化を示すかトロポニン値の上昇を認める者を対象とした。対象者はオープンフェースマスクで6L酸素投与するか、室内酸素下のいずれかへ割付された。

対象者は6629名。酸素投与の中間値は11.6時間だった。酸素投与群のSpO2:99%(中間値)、室内酸素群のSpO2:97%(中間値)。両群で316名(4.8%)が何らかの原因(心停止、心不全、呼吸不全など)で低酸素血症に陥り、更なる酸素療法を要した。316名のうち62名 (1.9%) が酸素療法群で、254名(7.7%)が室内酸素群であった。トロポニン値は両群で同程度だった。介入開始から1年以内の死亡率に有意差を認めなかった(酸素療法群166/3311名:5.0%、室内酸素群168/3318名:5.1%)。1年以内のAMI再発による再入院も有意差を認めなかった(酸素療法群126名:3.8%、室内酸素群111名:3.3%)。

以上より、低酸素血症を伴っていないAMI疑いに対してルーチンで酸素投与を行っても、1年後の全死亡率を低下させることはできない。

Oxygen Therapy in Suspected Acute Myocardial Infarction
N Engl J Med
2017 vol: 13377 pp: 1240-9

(私見)
室内酸素群の方が治療のための酸素投与を要した人数が多いのは、もともと酸素投与していなかったためでしょう。その根拠として、本文中では再梗塞、不整脈、心原性ショックなどの合併症の発症率が両群で有意差を認めず、酸素療法以外の薬物治療も両群で有意差を認めていないことが示されています。過去には「低酸素血症を伴っていないACSに対する酸素投与は有害性があるかもしれない」という論文も報告されております。そのため「胸痛(AMI疑い)=取り敢えず酸素投与」というパターン認識ではなく、他の薬物治療と同様に必要性を考慮して個別に対応することが大切なのでしょう。

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緊急気管挿管の際にApneic Oxygenationを行ったほうが安全かもしれない

緊急気管挿管の際にApneic Oxygenationを行ったほうが安全かもしれない

(情報)
2006年~2016年までに行われたRCTと観察研究を対象としたシステマティック・レビュー。最終的に8つの研究を抽出し、1837名を対象にメタ解析。 Apneic Oxygenationを実施したところ、非実施群と比較して、全体として低酸素血症の発症頻度を減らした(OR 0.66)。ただし重度~致命的な低酸素血症の発症頻度は変わらなかった。一方で、気管挿管の初回成功率は高く(OR 1.59)、挿管中の最低SpO2値も高かった。

Effectiveness of Apneic Oxygenation During Intubation: A Systematic Review and Meta-Analysis
Oliveira Silva L Cabrera D Barrionuevo PJohnson R Erwin P et. al.
Annals of Emergency Medicine
2017 vol: 70 pp: 483-494.e11

※ Apneic Oxygenation
Apneic oxygenationとは、挿管の際に自発呼吸が消失して無呼吸になった患者に対して行う経鼻的酸素投与(通常は鼻カニュラ高流量10ー15L/min)のこと。実際の挿管手技中(BVM換気を中止⇒開口⇒口頭展開⇒正門確認⇒挿管)も経鼻から酸素投与し続ける。

(私見)
Apneic Oxygenationに関しては賛否両論の報告が出ておりますが、コストや侵襲性のデメリットは大きくないため、個人的には頻用しております。とはいえ、今回の報告でも重度の低酸素血症の発症率に有意差がでておりませんので、挿管困難に対する周到な準備は欠かせませんね。

 

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経口ステロイドで咽頭痛を和らげることができるかもしれない

経口ステロイド咽頭痛を和らげることができるかもしれない

(情報)
ステマティック・レビューとRCTのメタ解析。救急外来またはプライマリ・ケア外来を受診した5歳以上の、扁桃腺炎、咽頭炎、あるいは咽頭痛を訴える患者が対象。10の研究に参加した1426名が対象となった。ステロイド投与群(デキサメタゾン最大10mgが最も頻度の多い処方内容だった)は、対照群と比較して24時間後の疼痛緩和の割合は2.2倍、48時間後の疼痛緩和の割合は1.5倍多かった。疼痛緩和までの時間は対照群よりも4.8時間早く、疼痛消失までの時間は11.1時間早かった。有害事象については9の研究で評価されており、そのうち6の研究では有害事象を認めず、3の研究ではわずかに認めるのみであった(しかし原病に関連する症状や、対照群でも同程度の有害事象をみとめている)。

したがってステロイドの単回投与は、重大な有害事象を引き起こすことなく、咽頭痛を和らげることができるかもしれない。

Corticosteroids for treatment of sore throat: systematic review and meta-analysis of randomised trials
Sadeghirad B C Siemieniuk R Brignardello-Petersen R Papola D Lytvyn L Olav Vandvik P Merglen A Guyatt G Agoritsas T
the bmj BMJ
2017 vol: 358

(私見)
これまで咽頭痛に対してステロイド投与はあまり行っていませんでしたが、普段は健常の方で咽頭痛が酷い場合は考慮してもよさそうですね。

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急性心不全患者の死亡率をより正確に予測できるかもしれない

急性心不全患者の死亡率をより正確に予測できるかもしれない

(情報)
前向きコホート研究。2009年~2011年までに救急外来を受診した4867名の急性心不全患者を対象に、30日死亡率を予測するスコアを設計し、2014年に受診した3229名を対象に検証した。

88項目から13項目の独立したリスク因子を抽出し、MEESSI-AHF (Multiple Estimation of risk based on the Emergency department Spanish Score In patients with AHF) スコアとした。そして2014年の検証でも妥当性が確認された。

MEESSI-AHFスコア オンラインツール
http://meessi-ahf.risk.score-calculator-ica-semes.portalsemes.org/
(WEBでスコア化と予測死亡率を評価することができます)

Miró Ò, Rossello X, Gil V, Martín-Sánchez FJ, Llorens P, Herrero-Puente P, et al. Predicting 30-Day Mortality for Patients With Acute Heart Failure in the Emergency Department: A Cohort Study. Ann Intern Med. [Epub ahead of print 3 October 2017] doi: 10.7326/M16-2726

(私見)
異国の地で設計された予測スコアのため、そのまま転用できるとは限りませんが、救急外来で実施可能な項目となっており、しかも未測定項目があっても算出できるのはいいですね。

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急性呼吸器感染症に対する抗菌薬療法の開始や中止の判断材料としてプロカルシトニン(PCT)は有用かもしれない

急性呼吸器感染症に対する抗菌薬療法の開始や中止の判断材料としてプロカルシトニン(PCT)は有用かもしれない

(情報)
Cochraneシステマティック・レビューのアップデート(前回2012年はPCTの有用性は見いだせなかった)。急性呼吸器感染症を対象に30日間の死亡率と治療失敗率を一次エンドポイント、抗菌薬使用期間、副作用、入院日数を二次エンドポイントとして調査。32のRCTが抽出され(今回新たに18のRCTが追加された)、そのうち26の研究、6708名の研究データを得ることができた。

一次エンドポイント:急性呼吸器感染症を対象とし、PCTを指標として治療を行った患者の死亡率8.6%(286/3336名)、対照患者の死亡率10.0%(336/3372名)で、PCTを指標とした方が有意に死亡率が低かった(OR0.83)。治療失敗率は有意差を認めなかった(23.0% vs 24.9%、P=0.068)。

二次エンドポイント:PCTを指標とした方が抗菌薬使用日数が2.4日間短かった(5.7日 vs 8.1日、P<0.001)。また副作用も少なかった(16.3% vs 22.1%、P<0.001)。入院日数やICU滞在日数は有意差を認めなかった。

したがって今回のレビューでは、急性呼吸器感染症に対してPCTを指標に抗菌薬療法の開始や中止を判断することで、死亡率の抑制、抗菌薬使用量の抑制、抗菌薬関連副作用の抑制を図れることが示唆された。

Procalcitonin to initiate or discontinue antibiotics in acute respiratory tract infections. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Oct 13;10:CD007498.

(私見)
ウチの職場では院内でPCTを迅速検査できません。外注のため検査結果が到着するまで数日間かかるため、治療方針へ反映させることが困難です。とはいえ今回の結果では、PCTを活用することで急性呼吸器感染症に罹患した約3300名のうち約50名ほど死亡者数を減らせるかもしれない、と考えるとインパクトある結果だなぁと感じます。現実的には検査室の機器類を更新する際に、PCT測定項目を追加するかどうかってことになるんでしょうね、、、(BNPがそうだったように)

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「ウチの子はペニシリンアレルギーなんです」っていう親御さんの話は,再確認したほうがいいかもしれない

「ウチの子はペニシリンアレルギーなんです」っていう親御さんの話は,再確認したほうがいいかもしれない

(情報)
 抗菌薬アレルギーをもつ小児は珍しくない.その中でもペニシリンアレルギーは最も頻度の多い抗菌薬アレルギーである.しかし大抵の場合,親御さんからの情報を頼りに「抗菌薬アレルギーをもっている小児」とラベリングされており,実際に詳しいアレルギー検査で診断確定しているケースは多くない.

 19ヶ月の調査期間中に,都市部の救急外来を受診した3歳~18歳までの約600名の患児を対象とした単施設研究.患児は全て「ウチの子はペニシリンアレルギーをもっている」と親が報告している症例.過去のアレルギー症状について親から聴取し,低リスク群434名(非IgE介在症状,発疹,掻痒,下痢,嘔吐,鼻汁,吐気,咳嗽,アレルギーの家族歴)と高リスク群163名(アナフィラキシー症状,IgE介在症状)へ分けた.

 このうち低リスク群とされた小児100名に対してアレルギー検査(皮内テスト,アモキシシリン内服チャレンジテスト)を実施したところ,一人も陽性にならなかった.

Vyles D et al. Allergy testing in children with low-risk penicillin allergy symptoms. Pediatrics 2017 Jul 3; [e-pub]. (http://dx.doi.org/10.1542/peds.2017-0471)

(私見)
 抗菌薬アレルギー,特にペニシリン系抗菌薬へのアレルギーの有無は,生涯に渡って実臨床への影響が大きいですよね,,,そのため「昔,ウチの子に抗菌薬を飲ませたらアレルギーがでたんです」という情報を親御さんから頂いた場合は,アレルギー検査などで診断がついたレベルの話なのか,「アレルギーっぽい」症状がでた話なのか確認することが大切だなぁと感じています.

 

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AMIを疑っても,常に「大動脈解離に伴う冠動脈閉塞」の可能性を考慮して,ベッドサイドエコーを行ったほうが良さそう

AMIを疑っても,常に「大動脈解離に伴う冠動脈閉塞」の可能性を考慮して,ベッドサイドエコーを行ったほうが良さそう

(情報)
ケースレポート.大動脈解離によって冠動脈閉塞を招き,STEMIを呈することがある.そのようなときはベッドサイドエコー(Point of care ultrasound; POCUS)が有用かもしれない.

特に既往症のない69歳男性が胸痛を主訴にERを受診.心電図ではST上昇を認め,AMIを示唆していた.緊急カテの準備をする一方で,POCUS実施したところ上行大動脈でフラップ,明らかな大動脈弁逆流,頸動脈および腹部大動脈でもフラップを認めた.以上からStanford A型の大動脈解離を疑い,造影CTで診断確定へ至った.

AMIの診断や緊急治療を遅らせてはいけない.その一方でAMIの治療は大動脈解離にとって有害となる.そのためPOCUSはSTEMIを呈する大動脈解離の診断において,ERで実施できる迅速で特異度の高い検査方法といえる.

Diagnosis of Aortic Dissection Presenting as ST-Elevation Myocardial Infarction using Point-Of-Care Ultrasound, Jordan Chenkin,Received 9 March 2017, Revised 7 July 2017, Accepted 8 August 2017, Available online 20 October 2017

(私見)
寒くなる秋口から大動脈解離が増える印象をもっていますが,Stanford A型の大動脈解離に伴う冠動脈閉塞でのAMIを毎年経験します.大動脈解離は様々症状を呈するため,単一の身体所見や検査所見のみで除外することが難しい致死的疾患の一つだと感じています.AMIと大動脈解離では担当診療科も治療内容も大きく異なるため,AMIをみると(特に右冠動脈領域)常に大動脈解離の可能性を疑っています.そのため大動脈解離の診断に有用な検査の一つとしてベッドサイドエコーは必須だと思っています.けれど,体格や心臓の位置などで必ずしもキレイに描出できないのが辛いですが,,,

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