救急医?の雑記帳

日々感じたこと,調べたこと,得たこと,目標としていることなどを備忘録目的に不定期にまとめていこうと思います.

# 救急外来での気管挿管(RSI)時にフェンタニルを使用すると血圧低下を生じる傾向がある

# 救急外来での気管挿管(RSI)時にフェンタニルを使用すると血圧低下を生じる傾向がある

(情報)
気管挿管時の喉頭鏡による操作によって血圧上昇などの交感神経亢進を招くことがある。これを回避する目的で前投薬としてオピオイドを用いることがあるが、その有用性は十分に示されていない。フェンタニルは救急外来で用いられることの多いオピオイド前投薬の一つである。今回はフェンタニルの前投薬使用と気管挿管後の血圧低下の関連性について調査した。

日本国内の14の医療機関における2012年2月〜2016年11月まで救急外来で実施された気管挿管の多施設観察研究の二次解析。成人の非外傷、かつ非心停止症例が対象。気管挿管(RSI)の際に生じた収縮期血圧90mmHg以下を「気管挿管後の低血圧」と定義した。

もともと低血圧を認めない1263名が対象。そのうち37%でフェンタニルの前投薬を受けた。「気管挿管後の低血圧」はフェンタニル投与群で多く認めた(投与群17%、非投与群6%、OR 1.73, 95%CI 1.01-2.97, P=0.048)。多変量解析でも(OR 1.87, 95%CI 1.05-3.34, P=0.03)、プロペンシティスコア解析でも(OR 3.17, 95%CI 1.96-5.14, P<0.01)同様の傾向を認めた。ただし臨床経過に大きな違いはみられなかった。

以上より、今回実施した日本国内の救急外来における多施設参加前向き観察研究によると、RSIの際に前投薬としてフェンタニルを用いると、気管挿管後の低血圧を生じる傾向が示された。

私見
「薬理的にはフェンタニルは循環動態に影響を及ぼさないが、実臨床では病態の影響もあり血圧低下を招くことが珍しくない」という経験知がありました。そのことを具体的に示された国内の救急医の臨床研究です。今回のデータだけを踏まえると「RSIでフェンタニルを用いると、5人に一人の割合で血圧低下を生じるかもしれない」という感覚でしょうか。普段の臨床感覚に近いなぁと思います。こういう一つ一つの積み重ねが非常に大切ですね。引き続き、気管挿管時の血圧低下に備えて行きたいと思います。

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