救急医?の雑記帳

日々感じたこと,調べたこと,得たこと,目標としていることなどを備忘録目的に不定期にまとめていこうと思います.

# 背部痛の「Red Flag」は必ずしも「Red」とは言い切れない

# 背部痛の「Red Flag」は必ずしも「Red」とは言い切れない

(情報)
背部痛の中には重症病態が含まれるため、Red Flagの有無についてチェックすることを推奨されている。今回は、その「Red Flag」の有用性について評価。2005年〜2016年までにエモリー大学脊椎センターへ背部痛を主訴に初診できた9940名が対象(平均年齢57歳)。初診時にRed Flagを含めた問診が行われている。なお、Red Flagに関係する重症病態として、脊椎骨折、悪性疾患、感染症、馬尾症候群と定義した。

Red Flagとしての質問項目は以下の通り
- 50歳以上
- 70歳以上
- 就寝中に痛みで覚醒
- 夜間の発汗
- 外傷歴
- 最近の尿失禁
- 最近の便失禁
- 発熱・悪寒・発汗
- 悪性腫瘍
- 原因不明の体重減少
- 最近の感染症

その結果、9940名のうち脊椎骨折554名(5.6%)、悪性疾患159名(1.6%)、感染症120名(1.2%)、馬尾症候群36名(0.4%)であった。

上述の診断に対してRed Flagの単一項目で陽性尤度比5以上なのは、悪性腫瘍に対する「悪性腫瘍の既往歴(PLR7.25)」、感染症に対する「最近の感染症(PLR9.31)」の2つのみだった。また重症疾患に対する陰性尤度比は、いずれもNLR0.71〜1.07であった。一方、夜間の痛みはいずれの疾患とも関連性を認めなかった。またRed Flagが全て陰性であっても、重症病態を確実に否定することはできなかった。例えば脊髄腫瘍の64%はRed Flagを有していなかった。

複数の項目を組み合わせた場合では、脊椎骨折に対して「最近の外傷歴あり+50歳以上(PLR2.54)」「最近の外傷歴あり+70歳以上(PLR4.35)」、悪性腫瘍に対して「原因不明の体重減少+悪性腫瘍の既往歴(PLR10.25)」、感染症に対して「発熱、悪寒または発汗+最近の感染症(PLR13.15)」、馬尾症候群に対して「最近の尿失禁おうよび便失禁(PLR3)」であった。

結論:背部痛に対して、Red Flagを有する場合は重症病態を考慮する必要はある。しかしRed Flagを有しないからといって重症病態を否定することはできない。

Premkumar A et al. Red flags for low back pain are not always really red: A prospective evaluation of the clinical utility of commonly used screening questions for low back pain. J Bone Joint Surg Am 2018 Mar 7; 100:368. (https://doi.org/10.2106/JBJS.17.00134)

私見
クリニカルパールとして背部痛のRed Flagは様々な教科書へ記載されています(注1)。しかし具体的な内容については、教科書やガイドライン、文献によって少し違いがあるようです。今回の報告によると、重症病態の診断に対してRed Flagの単一項目で有用性が高いのは、悪性腫瘍に対する「悪性腫瘍の既往歴(PLR7.25)」、感染症に対する「最近の感染症(PLR9.31)」の2つのみでした。また陰性尤度比は、いずれもNLR0.71〜1.07であり、除外方法としてRed Flagを活用するのは注意が必要そうです。

複数の組み合わせでは陽性尤度比が上昇していますが、通常の診療感覚からみて「そりゃ注意必要だよね」という組み合わせなので、診療姿勢への影響は個人的にあまりなさそうです。

そのため「盲目的に鎮痛薬だけで帰してはいけない腰痛症の人」を意識するためのクリニカルパールという位置づけが、妥当な捉え方でしょうか。

ただし今回の研究は後ろ向きカルテレビューであること、総合病院の脊椎センターという疾患頻度に偏りのある診療環境というLimitationがありますので、プライマリ・ケアセッティングでは結果が異なる可能性が十分にあります。また今回の報告では上述の4つの重症病態を対象としており、FACET(注2)における大動脈解離や大動脈瘤破裂は含まれていません。

(注1)腰痛におけるRed Flag
- 発症年齢が20歳未満か55歳以上
- 最近の激しい外傷歴(高所からの転落、交通事故など)
- 進行性の絶え間ない痛み(夜間痛、楽な姿勢なし、動作無関係)
- 胸部痛
- 悪性腫瘍の病歴
- 長期間にわたるステロイド剤の使用歴
- 非合法薬物の静脈注射、免疫抑制剤の使用、HIV陽性
- 全般的な体調不良
- 原因不明の体重減少
- 腰部の強い屈曲制限の持続
- 脊椎叩打痛
- 身体の変形
- 発熱
- 膀胱直腸障害とサドル麻痺

(注2)危ない腰痛の5分類
- Fracture:骨折
- Aorta:大動脈解離・大動脈瘤破裂
- Compression:脊髄圧迫症候群
- Epidural abcess:膿瘍・感染
- Tumor:腫瘍

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