救急医?の雑記帳

日々感じたこと,調べたこと,得たこと,目標としていることなどを備忘録目的に不定期にまとめていこうと思います.

# 重症患者に対するPiperacillin-Tazobactam は持続投与したほうがよさそう

# 重症患者に対するPiperacillin-Tazobactam は持続投与したほうがよさそう

(情報)
重症患者に対するPiperacillin-Tazobactamは持続投与または簡潔投与のいずれが効果的かを調べたメタ分析。 18の研究、3401名のPiperacillin-Tazobactamを投与された患者が対象。そのうち56.7%で持続投与を受けた。持続投与群では間欠投与群と比較して死亡率が1.46倍低下(95%CI 1.20-1.77)、臨床的な改善は1.77倍高く(95%CI 1.24-2.54)、微生物学的改善は1.22倍高かった(95%CI 0.84-1.77)。特に死亡率が高い(平均死亡率20%)研究で、その傾向がみられた。

Prolonged Infusion Piperacillin-Tazobactam Decreases Mortality and Improves Outcomes in Severely Ill Patients: Results of a Systematic Review and Meta-Analysis*

Nathaniel J. Rhodes; Jiajun Liu; J. Nicholas O’Donnell; Joel M. Dulhunty; Mohd H. Abdul-Aziz; Patsy Y. Berko; Barbara Nadler; Jeffery Lipman; Jason A. Roberts

私見
持続投与ラインを一つ必要とするため、ライン確保と感染リスクの点で少し懸念はあるものの、投与方法を変えるだけで治療効果が向上するのは嬉しいですね。皆さまの施設ではどのように投与されているのでしょうか?

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# 救急外来とはいえプライバシーが守られた環境でないと、誤診リスクが高まるかもしれない

# 救急外来とはいえプライバシーが守られた環境でないと、誤診リスクが高まるかもしれない

(情報)
救急科専門医409名に対するアンケート調査。廊下などの開放的な場所や付添人がいると、約8割〜9割くらいの救急医が病歴や身体診察について、普段とは異なる対応をとっていると回答。ただし10年目クラスの医師だと、普段と同じように病歴聴取を行う傾向あり。一方、廊下など開放的な場所で診察を続けていると、診断遅延や誤診につながる恐れあり、特に泌尿器系疾患でその傾向が強い。また自傷行為、DV、児童虐待などに関する病歴聴取を開放的な場所で行うと、正確な情報が得られない傾向あり。結論:廊下などの開放的な場所や、付添人がいる状況での病歴聴取や身体診察は、普段の診療とは異なる方法をとりがちで、その結果として診断エラーや対応遅延につながる恐れがある。

Stoklosa H et al. Do EPs change their clinical behaviour in the hallway or when a companion is present? A cross-sectional survey. Emerg Med J 2018 Feb 3; [e-pub]. (https://doi.org/10.1136/emermed-2017-207119)

私見
うんうん、そうですよね、という感じです。救急外来だと、十分なプライバシーが守れているとはいい難い環境や、付き添いの方がいる状況で問診や身体診察をせざるを得ないことがありますが、そういうときは診断エラーや対応遅延が生じるリスクがあるなぁと意識しています。あと、医学生さんなど実習生が付き添っているときも、似たような影響が生じているなぁと感じているため、気をつけています(^_^;)

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# ERで虚弱高齢者に対して入院リスク、死亡リスク、介護環境整備の必要性を予測するうえで、CGAの視点は有用

# ERで虚弱高齢者に対して入院リスク、死亡リスク、介護環境整備の必要性を予測するうえで、CGAの視点は有用

 

(情報)
 Frailty(日本では“フレイル”と表現)は老年医学において重要な概念であるが、救急外来では十分に浸透しておらず、活用もされていない。そこでRockwood cumulative deficits modelを元に救急外来でも活用しやすい24項目からなる「FI-ED : ED frailty index」を考案した。多国参加、前向きコホート研究。救急外来を受診した75歳以上の高齢者が対象。

 検証の対象者は1,750名。FI-EDの点数が高いほど、入院、28日以内の死亡、長期入院、介護施設への入所、CGAの必要性と有意な関係を認めた。そのためFI-EDは上述のような有害事象が発生しうる虚弱高齢者の同定に有用と思われる。

 

Identification of older adults with frailty in the Emergency Department using a frailty index: results from a multinational study
Age and Ageing

 

(私見)
 今回の論文ではRockwood cumulative deficits modelをベースに考案されたED frailty indexの検証がされています。実際に現場で活用するためには、項目ごとの重み付けや、点数に応じてどのように対応するかなど、検討事項がありそうです。とはいえ見方を変えると、身体機能低下数の概念に基づくFrailtyの概念が、ERセッティングでも有用そうだ、と感じています。年々、高齢者救急が増えてくる日本において、老年医学、家庭医療の領域で親和性のあるCGA (Comprehensive Geriatric
Assessment)が救急領域でも意識されてくるんだろうなぁと考えています。

 

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日本におけるワーファリン拮抗薬としての「ケイセントラ®」の有効性

日本におけるワーファリン拮抗薬としての「ケイセントラ®」の有効性

(情報)
既に海外では大規模な2つの第Ⅲb相で有効性が示されている「ケイセントラ®」(静注用人プロトロンビン複合体製剤、血液凝固第II、第VII、第IXおよび第X因子の4つの血液凝固因子を合わせた製剤)について、国内での有効性を確認した第Ⅲb相試験。対象は20歳以上の11名で、いずれもPT-INR>2。そのうち6名は大量出血でビタミンK拮抗薬の急速中和を要する症例(PT-INR中間値4.76 ; 2.26-10.56)、残り5名は緊急手術・観血的処置のため事前に静注用人プロトロンビン複合体製剤の投与を要する症例(PT-INR中間値3.13 ; 2.11-5.82)であった。投与30分後でPT-INR<1.3に達したのは全体の81.8%(大量出血例で83.3%、緊急手術・処置例で80.0%)だった。止血効果が得られたのは大量出血例で60%、緊急手術・処置例で100%だった。重大な副作用が発現したのは大量出血例で90.9%、緊急手術・処置例で45.5%だった。ただし重大な副作用例のうち2例は治療に伴うもので、血栓塞栓症の発症はわずかであった。また死亡に繋がる副作用、輸液過多、ウイルス感染症の発症はみられなかった。そのため日本においても大量出血や緊急手術・観血的処置前の症例に対して、ケイセントラ®は有効と思われる。

Efficacy and safety of a 4‑factor prothrombin complex concentrate for rapid vitamin K antagonist reversal in Japanese patients presenting with major bleeding or requiring urgent surgical or invasive procedures: a prospective, open‑label, single‑arm phase 3b study
Kushimoto S Fukuoka T Kimura A Toyoda K Brainsky A Harman A Chung T Yasaka M
Int J Hematol
123 vol: 1 (106) pp: 777-786

(私見)
ワーファリン使用中の脳出血などに対して、PPSB-HT®がOff-label使用されることがありますが、今のところPT-INR値に応じた投与量が確立していなかったはずです(経験知の集積はあります)。そのため今回「ビタミンK拮抗薬投与中の患者における、急性重篤出血時、又は重大な出血が予想される緊急を要する手術・処置の施行時の出血傾向の抑制」の適応を取得したケイセントラ®が標準治療に位置づけられるのかなぁと考えています。それにしても実際の投与量で薬価を計算すると、約2.5倍くらいするんですね(体重50kgだとPPSB-HT®約64,000円、ケイセントラ®約160,000円)高い。。。

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重症外傷や分娩後の大量出血に対するトラネキサム酸は、発症直後に投与するのが大切

(情報)
外傷出血や分娩後出血に対してトラネキサム酸を使用することで、死亡率を下げることは、過去の研究で確認されている。今回は、トラネキサム酸の投与タイミングが、予後へ影響を与えるのかメタ解析で調べた。

 対象は40138名の外傷または分娩後の大量出血に対してトラネキサム酸を使用した方。そのうち3558名が死亡し、死亡者のうち1408名(40%)が出血によるものであった。出血による死亡者1408名のうち884名(63%)は発症から12時間以内に死亡している。出血部位に関わらず、トラネキサム酸を投与することで生存率は改善している(OR 1.20,95%CI 1.08-1.33,P=0.001)。発症直後にトラネキサム酸を投与することが最も生存率を向上させる(OR 1.72, 95% CI 1.42-2.10, P<0.0001)。一方、トラネキサム酸の投与が15分遅れる毎に、生存率ベネフィットが10%低下し、3時間遅れると生存ベネフィットがなくなる。尚、トラネキサム酸投与による血管閉塞の副作用はみられなかった。

 重症外傷や分娩後の大量出血では、発症直後にすぐトラネキサム酸を投与するのが望ましい。

 Effect of treatment delay on the effectiveness and safety of antifibrinolytics in acute severe haemorrhage: a meta-analysis of individual patient-level data from 40 138 bleeding patients.

(私見)

 外傷による大量出血に対するトラネキサム酸の有効性は認識していましたが、発症直後から時間経過とともに有効性が低くなっていくことが本文ではグラフィカルに示されていた。これまで以上に投与タイミングをできるだけ早められるよう意識したいと思います。

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心原性ショックを伴う急性心筋梗塞に対する緊急PCIでは責任病変のみに留めたほうがよさそう

心原性ショックを伴う急性心筋梗塞に対する緊急PCIでは責任病変のみに留めたほうがよさそう

(情報)
心原性ショックを伴う急性心筋梗塞(AMI)では、緊急PCIによって責任病変の再開通を迅速に行うことで、転帰を改善させることができる。しかし心原性ショックを呈するAMIでは多枝病変を伴っていることが多く、責任病変以外の狭窄病変についても緊急PCIの際に併せて治療すべきかどうか結論が出ていない。

そのため他施設共同無作為化非盲検試験を実施。706名の心原性ショックを呈した多枝病変を伴うAMI患者が対象。無作為に責任病変のみ治療する群(責任病変治療群)と、他の狭窄病変も一緒に治療する群(多枝病変治療群)へ割付。一次エンドポイントは30日以内の死亡、腎代替療法の実施とした。

30日以内の死亡および腎代替療法は、責任病変治療群で158/344名(45.9%)、多枝病変治療群で189/341名(55.4%)であった(RR 0.83, 95% CI 0.71-0.96, P=0.01)。多枝病変治療群に対する責任病変治療群の死亡の相対リスクは0.84( 95% CI 0.72-0.98, P=0.03)、腎代替療法の相対リスクは0.71(95% CI 0.49-1.03, P=0.07)。

したがって心原性ショックを呈した多枝病変を伴うAMIでは、初回治療の際に多枝病変を一気にPCIするよりも、責任病変のみPCIするほうが30日以内の死亡または腎代替療法の頻度が少ない。

N Engl J Med. 2017 Oct 30. doi: 10.1056/NEJMoa1710261.
PCI Strategies in Patients with Acute Myocardial Infarction and Cardiogenic Shock.

(私見)
外傷治療におけるDamage control surgeryのように、循環動態が著しく悪い場合は、循環動態に関わる責任病変の治療を最優先し、それ以外の狭窄病変は全身状態が良くなってから二期的に治療する方がよさそうですね。私自身がPCIすることはありませんが、全身状態が非常に悪い場合の緊急PCIでは、外回り(全身管理)を担うことがありますので、救急医療の周辺領域として理解を深めておこうと思います。

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人工呼吸器の肺保護戦略はERから行いましょう

人工呼吸器の肺保護戦略はERから行いましょう

 

(情報)
ARDSに対する肺保護戦略は永らく支持されているにも関わらず、ERで行われないままICU入室してから開始されることが少なくない。そのためERから肺保護戦略を実施した場合の生命予後への影響について調べた。単施設での前後比較観察研究。介入前については18歳以上の気管挿管管理についてカルテレビューで抽出。介入後については救急外来を受診後7日以内にARDSを発症した症例を対象とした。ただし24時間以内に抜管あるいは死亡した症例、他院からの転院症例、長期人工呼吸器管理の症例は対象外とした。介入方法は、6ヶ月間の学習期間を行った(ミーティング、レクチャー、ベッドサイドティーチングなど)

229名が対象となった。介入後はERでもICUでも肺保護戦略の実施率が高まった(ER介入前11.1%、ER介入後61.5%、ICU介入前11.4%、ICU介入後35.3%)。また死亡率低下(OR 0.36; P=0.02)も認めた。

以上より、ERの時点から肺保護戦略を実施することは有効と思われる。

A Quasi-Experimental, Before-After Trial Examining the Impact of an Emergency Department Mechanical Ventilator Protocol on Clinical Outcomes and Lung-Protective Ventilation in Acute Respiratory Distress Syndrome. Fuller BM, Ferguson IT, et al: Crit Care Med; 2017;45 (April): 645-652.

 

(私見)
適切な重症管理はICUからではなく、ERへ搬入された直後から行うほうが理想的なのは感覚的に納得できるところです。今回は、そのことを確認した形になるかと思われます。単施設での介入前後比較研究のため様々なバイアスが入っているとは思われます。しかしERから肺保護戦略を実施することは、そんなにコスト(人的、経済的)がかかるものではなく、有害性が生じるものでもないように思います。そのため、これまで以上に「ERから適切なICU管理を開始しよう!」という方針で運営していきたいと思います。

 

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