救急医?の雑記帳

日々感じたこと,調べたこと,得たこと,目標としていることなどを備忘録目的に不定期にまとめていこうと思います.

経口ステロイドで咽頭痛を和らげることができるかもしれない

経口ステロイド咽頭痛を和らげることができるかもしれない

(情報)
ステマティック・レビューとRCTのメタ解析。救急外来またはプライマリ・ケア外来を受診した5歳以上の、扁桃腺炎、咽頭炎、あるいは咽頭痛を訴える患者が対象。10の研究に参加した1426名が対象となった。ステロイド投与群(デキサメタゾン最大10mgが最も頻度の多い処方内容だった)は、対照群と比較して24時間後の疼痛緩和の割合は2.2倍、48時間後の疼痛緩和の割合は1.5倍多かった。疼痛緩和までの時間は対照群よりも4.8時間早く、疼痛消失までの時間は11.1時間早かった。有害事象については9の研究で評価されており、そのうち6の研究では有害事象を認めず、3の研究ではわずかに認めるのみであった(しかし原病に関連する症状や、対照群でも同程度の有害事象をみとめている)。

したがってステロイドの単回投与は、重大な有害事象を引き起こすことなく、咽頭痛を和らげることができるかもしれない。

Corticosteroids for treatment of sore throat: systematic review and meta-analysis of randomised trials
Sadeghirad B C Siemieniuk R Brignardello-Petersen R Papola D Lytvyn L Olav Vandvik P Merglen A Guyatt G Agoritsas T
the bmj BMJ
2017 vol: 358

(私見)
これまで咽頭痛に対してステロイド投与はあまり行っていませんでしたが、普段は健常の方で咽頭痛が酷い場合は考慮してもよさそうですね。

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急性心不全患者の死亡率をより正確に予測できるかもしれない

急性心不全患者の死亡率をより正確に予測できるかもしれない

(情報)
前向きコホート研究。2009年~2011年までに救急外来を受診した4867名の急性心不全患者を対象に、30日死亡率を予測するスコアを設計し、2014年に受診した3229名を対象に検証した。

88項目から13項目の独立したリスク因子を抽出し、MEESSI-AHF (Multiple Estimation of risk based on the Emergency department Spanish Score In patients with AHF) スコアとした。そして2014年の検証でも妥当性が確認された。

MEESSI-AHFスコア オンラインツール
http://meessi-ahf.risk.score-calculator-ica-semes.portalsemes.org/
(WEBでスコア化と予測死亡率を評価することができます)

Miró Ò, Rossello X, Gil V, Martín-Sánchez FJ, Llorens P, Herrero-Puente P, et al. Predicting 30-Day Mortality for Patients With Acute Heart Failure in the Emergency Department: A Cohort Study. Ann Intern Med. [Epub ahead of print 3 October 2017] doi: 10.7326/M16-2726

(私見)
異国の地で設計された予測スコアのため、そのまま転用できるとは限りませんが、救急外来で実施可能な項目となっており、しかも未測定項目があっても算出できるのはいいですね。

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急性呼吸器感染症に対する抗菌薬療法の開始や中止の判断材料としてプロカルシトニン(PCT)は有用かもしれない

急性呼吸器感染症に対する抗菌薬療法の開始や中止の判断材料としてプロカルシトニン(PCT)は有用かもしれない

(情報)
Cochraneシステマティック・レビューのアップデート(前回2012年はPCTの有用性は見いだせなかった)。急性呼吸器感染症を対象に30日間の死亡率と治療失敗率を一次エンドポイント、抗菌薬使用期間、副作用、入院日数を二次エンドポイントとして調査。32のRCTが抽出され(今回新たに18のRCTが追加された)、そのうち26の研究、6708名の研究データを得ることができた。

一次エンドポイント:急性呼吸器感染症を対象とし、PCTを指標として治療を行った患者の死亡率8.6%(286/3336名)、対照患者の死亡率10.0%(336/3372名)で、PCTを指標とした方が有意に死亡率が低かった(OR0.83)。治療失敗率は有意差を認めなかった(23.0% vs 24.9%、P=0.068)。

二次エンドポイント:PCTを指標とした方が抗菌薬使用日数が2.4日間短かった(5.7日 vs 8.1日、P<0.001)。また副作用も少なかった(16.3% vs 22.1%、P<0.001)。入院日数やICU滞在日数は有意差を認めなかった。

したがって今回のレビューでは、急性呼吸器感染症に対してPCTを指標に抗菌薬療法の開始や中止を判断することで、死亡率の抑制、抗菌薬使用量の抑制、抗菌薬関連副作用の抑制を図れることが示唆された。

Procalcitonin to initiate or discontinue antibiotics in acute respiratory tract infections. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Oct 13;10:CD007498.

(私見)
ウチの職場では院内でPCTを迅速検査できません。外注のため検査結果が到着するまで数日間かかるため、治療方針へ反映させることが困難です。とはいえ今回の結果では、PCTを活用することで急性呼吸器感染症に罹患した約3300名のうち約50名ほど死亡者数を減らせるかもしれない、と考えるとインパクトある結果だなぁと感じます。現実的には検査室の機器類を更新する際に、PCT測定項目を追加するかどうかってことになるんでしょうね、、、(BNPがそうだったように)

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「ウチの子はペニシリンアレルギーなんです」っていう親御さんの話は,再確認したほうがいいかもしれない

「ウチの子はペニシリンアレルギーなんです」っていう親御さんの話は,再確認したほうがいいかもしれない

(情報)
 抗菌薬アレルギーをもつ小児は珍しくない.その中でもペニシリンアレルギーは最も頻度の多い抗菌薬アレルギーである.しかし大抵の場合,親御さんからの情報を頼りに「抗菌薬アレルギーをもっている小児」とラベリングされており,実際に詳しいアレルギー検査で診断確定しているケースは多くない.

 19ヶ月の調査期間中に,都市部の救急外来を受診した3歳~18歳までの約600名の患児を対象とした単施設研究.患児は全て「ウチの子はペニシリンアレルギーをもっている」と親が報告している症例.過去のアレルギー症状について親から聴取し,低リスク群434名(非IgE介在症状,発疹,掻痒,下痢,嘔吐,鼻汁,吐気,咳嗽,アレルギーの家族歴)と高リスク群163名(アナフィラキシー症状,IgE介在症状)へ分けた.

 このうち低リスク群とされた小児100名に対してアレルギー検査(皮内テスト,アモキシシリン内服チャレンジテスト)を実施したところ,一人も陽性にならなかった.

Vyles D et al. Allergy testing in children with low-risk penicillin allergy symptoms. Pediatrics 2017 Jul 3; [e-pub]. (http://dx.doi.org/10.1542/peds.2017-0471)

(私見)
 抗菌薬アレルギー,特にペニシリン系抗菌薬へのアレルギーの有無は,生涯に渡って実臨床への影響が大きいですよね,,,そのため「昔,ウチの子に抗菌薬を飲ませたらアレルギーがでたんです」という情報を親御さんから頂いた場合は,アレルギー検査などで診断がついたレベルの話なのか,「アレルギーっぽい」症状がでた話なのか確認することが大切だなぁと感じています.

 

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AMIを疑っても,常に「大動脈解離に伴う冠動脈閉塞」の可能性を考慮して,ベッドサイドエコーを行ったほうが良さそう

AMIを疑っても,常に「大動脈解離に伴う冠動脈閉塞」の可能性を考慮して,ベッドサイドエコーを行ったほうが良さそう

(情報)
ケースレポート.大動脈解離によって冠動脈閉塞を招き,STEMIを呈することがある.そのようなときはベッドサイドエコー(Point of care ultrasound; POCUS)が有用かもしれない.

特に既往症のない69歳男性が胸痛を主訴にERを受診.心電図ではST上昇を認め,AMIを示唆していた.緊急カテの準備をする一方で,POCUS実施したところ上行大動脈でフラップ,明らかな大動脈弁逆流,頸動脈および腹部大動脈でもフラップを認めた.以上からStanford A型の大動脈解離を疑い,造影CTで診断確定へ至った.

AMIの診断や緊急治療を遅らせてはいけない.その一方でAMIの治療は大動脈解離にとって有害となる.そのためPOCUSはSTEMIを呈する大動脈解離の診断において,ERで実施できる迅速で特異度の高い検査方法といえる.

Diagnosis of Aortic Dissection Presenting as ST-Elevation Myocardial Infarction using Point-Of-Care Ultrasound, Jordan Chenkin,Received 9 March 2017, Revised 7 July 2017, Accepted 8 August 2017, Available online 20 October 2017

(私見)
寒くなる秋口から大動脈解離が増える印象をもっていますが,Stanford A型の大動脈解離に伴う冠動脈閉塞でのAMIを毎年経験します.大動脈解離は様々症状を呈するため,単一の身体所見や検査所見のみで除外することが難しい致死的疾患の一つだと感じています.AMIと大動脈解離では担当診療科も治療内容も大きく異なるため,AMIをみると(特に右冠動脈領域)常に大動脈解離の可能性を疑っています.そのため大動脈解離の診断に有用な検査の一つとしてベッドサイドエコーは必須だと思っています.けれど,体格や心臓の位置などで必ずしもキレイに描出できないのが辛いですが,,,

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第6回とうほくGIMカンファレンスのお知らせ

 有志の先生方と協働しながら年3回くらいのペースで,問診と身体所見を手がかりに診断思考過程を大切にして臨床推論力を高めあう学習企画「とうほくGIMカンファレンス」を開催しまています.この度,第6回企画の事前登録の受付を開始しましたので,お知らせ致します.医学生,研修医,指導医どなたでも参加大歓迎です.

尚,当日の昼食手配の関係から事前登録制としておりますが,当日の飛び入り参加も大歓迎です.その際は昼食持参でお願い致します.

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第6回 とうほくGIMカンファレンス

日時:2017年11月19日(日)10:00~14:00

会場:坂総合病院2階【教育ステーション】(宮城県塩竈市錦町16-5)

仙石線下馬駅」隣接裏手の「時間外外来」よりお入り下さい

対象者:医学生、研修医、指導医どなたでも参加大歓迎

参加費:500円(昼食付き)

申込方法:こちらからお申込みください

申込締切:平成29年11月10日(金)
共催 NPO法人艮陵協議会

お問い合わせ:NPO法人艮陵協議会

 宮城県仙台市青葉区星陵町1番1号東北大学病院

 Tel:022-728-5026 / Fax:022-728-5027

 E-mail: info@gonryo.com

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浸透圧ギャップを認める場合は,ヤバイ状態かもしれない

浸透圧ギャップを認める場合は,ヤバイ状態かもしれない

(情報)
浸透圧の実測値と計算値(2x(Na+ + K+ ) + glucose/18 + BUN/2.8)の差を「浸透圧ギャップ」としている.アニオンギャップを伴うアシドーシス,原因不明の意識障害,薬物中毒の疑いがある,アルコール中毒の疑いがある,プロピレングリコール中毒の疑いがある,といったときに浸透圧ギャップを計算するのが良い.

浸透圧ギャップの基準値は-10~10 mOsmol/kgである.浸透圧ギャップ >20 mOsmol/kgの際は,水溶性の低分子化合物(例:メタノールエチレングリコール,イソプロパノール,プロピレングリコールジエチレングリコール,アセトン)の摂取を疑う.浸透圧ギャップが生じている際は,造影剤腎症を引き起こす可能性がある.浸透圧ギャップを招く最も頻度の多い原因はアルコール中毒である.その他の原因としては,アルコール性ケトアシドーシス,糖尿病性ケトアシドーシス,乳酸アシドーシス,ショック,腎機能障害,マンニトール点滴の影響などである.

アルコール中毒を疑う際は,経時的に浸透圧ギャップを計測するのが有用である.中毒発症の早期に採取した血液検体では,アルコール吸収によって浸透圧ギャップが生じているが,アニオンギャップは生じていない.時間経過した段階で採取した血液検体では,吸収されたアルコールが酸へ代謝されているため,浸透圧ギャップが基準値内へ戻っている.その一方でアニオンギャップが生じている.アルコール中毒を除けば,浸透圧ギャップを経時的に計測するのはあまり有用ではない.

以上より,浸透圧ギャップが上昇しているときは,何らかの危険な状態へ陥っている可能性が示唆される.

Serum Osmolal Gap in Clinical Practice: Usefulness and Limitations. Liamis G, Filippatos TD, et al: Postgrad Med; 2017;129 (May): 456-459.

 (私見)
アルコール中毒の際は,浸透圧ギャップの値を利用して血中濃度の推定値を計算することがあります(推定アルコール血中濃度=浸透圧ギャップ×4.6).また意識障害の際や,病態がはっきりしないショック状態,重症病態の際は血清浸透圧の実測値を検査室へ依頼することがあります.やや限定的な有用性ではありますが,知っていると役立つTipsですね.

 

※アルコール血中濃度と臨床症状
血中濃度(mg/dl)  症状
 50-100       気分の発揚、陽気、協調運動の障害
 100-         明らかな運動失調、品行の変化
 200-         傾眠、嘔吐
 300-         昏睡、反射の消失、低体温、血圧低下
 400-         呼吸抑制、CPA(心肺停止)のおそれ
(ただしアルコール多飲者は上記よりも高い血中濃度で症状を発症することあり)

 

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